環境問題の本質と
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[1]には、いわゆる生活ごみや廃棄物の問題はもちろんのこと、水や大気の汚染、目には見えないCO2や熱などの排出の問題、その延長にある気候変動(地球温暖化)への対応やリサイクル活動などが含まれます。人為由来のPM2.5や原発由来の放射能も、もちろんゴミの問題です。
一方の[2]には、野生生物の直接的な殺傷・乱獲・密猟(漁)や、外来種による在来種への影響、生息地・生育地の破壊などがあり、ようやく認識が広がりつつあるところです。
環境問題の解決とはこれら2つの本質を解決することに他ならず、「持続可能な社会」はこれらを解決することで実現することが出来ます。私たち人類の生存は年間33兆ドルとも試算される膨大な「生態系サービス」(自然のめぐみ)に支えられていることが分かっていますが、その生態系サービスは、健全な自然生態系、健全な生物多様性があってはじめてもたらされるものです。また、人類がこの先も健康で文化的、生産的な生活を続けていくためには、将来世代に対し、この生態系サービスを生み出す健全な自然生態系、健全な生物多様性と、それを取り巻く良好な環境を手渡していくことが必要となります(想像しにくければ、百年先や孫の世代のことを想えば理解出来ると思います)。持続可能な社会とは、生態系サービスを生み出す自然資源を末永く持続させ、それにより人類の存在を遠い将来まで持続することの出来る社会であり、環境問題を解決しなければならない理由や自然を守る意味はこれに尽きるのです。
しかし、そのようなことを踏まえていない“エコ的な”取り組みが多いように思われます。そのためか、1992年の地球サミット以来、環境問題は世界に共通で最大の課題とされているにもかかわらず、解決に向かうどころか全体として悪化する一方です。特に日本の状況はひどく、世界から遅れをとっています。
ところで、先の環境問題の本質のうち、「野生生物が絶滅する問題」の最大の原因は生息地・生育地の破壊、つまりビオトープの破壊であると言われています。ある野生生物に注目したとき、その生物が生きていくための場所、休眠や採食、繁殖、避難などを行う場所であるビオトープが必要ですが、その餌となる生物にもやはりビオトープが必要で、さらにその餌となる生物にもビオトープが必要です。行き着くところ、自然生態系をまるごと、要するに土地と空間を守らなければ自然は守ることが出来ないのであり、ビオトープ管理士はここに着目したものです。
しかし、“守る”とは言ってもわが国の自然地はもうそれほど多くはありません。都市部においてはより深刻なため、残された貴重な自然地を守りつつも、現実的にはビオトープを再生し自然地を増やすこと、そしてネットワークさせていく作業がメインとなります。ビオトープを守り再生することで、自然生態系、生物多様性を可能な限り健全な状態に戻していくことが出来れば、持続可能な社会が実現出来るのです。
「ビオトープ管理士」創設の背景と趣旨そのような物事の本質に気付いた環境先進国、ドイツやアメリカなどでは法の整備も早くからなされ、ビオトープの保全事業、再生事業が政策として積極的に取り組まれてきました。一方、高度経済成長を経てバブル経済に浮かれていたわが国は、残念ながら世界の動きに付いていけてはいません。経済が優先され自然破壊が拡大したことはご存知のとおりのためここでは割愛しますが、それでも1990年代の半ば頃より状況が変わり始めました。 当時、旧建設省による多自然型川づくりが推進され、河川法の改正に向けた動きなどもあったなか、手本として盛んに紹介されていたのはドイツの事例、いわゆるビオトープ事業でした。しかし、その根底にあるビオトープという概念はほとんど知られていません。そして問題は、ビオトープ事業の担い手となる技術者の養成と質の向上でした。 それというのも、ビオトープ事業としての目的を達成するためには従来の土地利用計画や土木、造園の施工技術に加え、生態学的な知識やビオトープの概念、ビオトープの評価能力、応用力、さらにそれらを活かすために関係する法制度の知識まで身に付けている必要があるからです。自然のための取り組みのはずなのにかえって自然を破壊してしまうという誤った認識による事故、無知による事故は現在でも散見されますが、当時であればなおのことだったのでしょう。 また別の角度から見れば、いわゆる公共事業が行われる場にビオトープの概念を導入出来るのであれば、保全や再生をより効率良く押し進められる可能性もあります(公共の財産である自然を保全・再生することは本来、それ自体を目的化して公共事業に位置付け、積極的に取り組むべきですが)。 そこで、環境NGOのセンター的な役割を担っていた日本生態系協会により「ビオトープ管理士」の資格制度が創設され、ビオトープ事業の担い手を発掘、育成することとなりました。これは、事業の発注サイド、受注サイド、その間に立つ市民やNGOなど、自然のことを想うあらゆるステークホルダーに望まれ、その理解・協力により実現したものです。 |
以上は、『ビオトープ管理士ってこんな人たち』(日本ビオトープ管理士会 刊)を一部修正し、転載しました。 |
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